映画と映像とテクストと

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『蜘蛛巣城』を観た

1957年。黒澤明監督。面白い。浅茅の怖さ。良い。三船が砦を上下に行ったり来たりするカット、本当にかっこいい。マクベスの翻案だということを意識したせいか、とても演劇的な映画だなあという印象を受けた。特に室内で1人の人間を頭から足まで中距離から全身で捉えるカットなどは、独特の面白さがある。とはいえ、屋外に出た時のロケシーンの方がやはり個人的にはワクワクするし、見応えがあるような気もしてしまう。

 

終盤、山田五十鈴が目に見えない手の血を洗い流すシーンは確かにすごい。あんな冷酷な人間さえ狂わせるというところが、いかにも人間を超えた物の怪の強大さと恐ろしさを感じさせる。狂うことによって、これまで物の怪さえ操りそうな浅茅(山田)が、初めて人間らしく見える。その落差にワクワクする。

 

そしてラストの三船が矢を射られるシーン。最後に三船が倒れるシーンでは誰も弓を構えているようには見えない。あの大量の矢を射る人間の姿があまり画面に映らない。大量に降る矢群それ自体が怪異のようで、あの矢を射ったのは、本当に下にいる兵たちだったのだろうかと少し思える。

 

人間ならざるものを描くというのは、黒澤映画では珍しい気がする。で、そう考えると、やはり人間ならざるものより、人間を描いたほうが黒澤は面白いんじゃないかなぁということも少し思った。いや、面白い映画だったとは思うんだけど。