映画と映像とテクストと

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『ダンケルク』を観た。

2017年。クリストファー・ノーラン監督。『テネット』を見たことだし、前作を見たくなって、見た。ノーランは大して面白くない話を本当に面白そうに撮るなぁと思う。あまり知的ではないかもしれないが、印象的な画も多い。

 

戦争の一体何を描きたいのか、よく分からない。反戦というのとも違う。人間ドラマというにはどこか薄っぺらい。極限状態での人の有様というには妙に間が抜けている。もちろん戦争の英雄を華々しく描きたいわけでもない。ただ、なんというかこういう感覚で戦争を描いていることは、とても正直だと感じるし、何より現代の多くの人にも共有しやすい価値観なんだろうなと思う。ノーランの映画が世界的にヒットしていることを考えると、この感覚は決して日本人だけじゃなく、世界的にも何か通じるものがあるのだろう。

 

戦争という舞台を扱いながら、そこで描かれるサスペンスとして、コックピットのハッチが開かなくて水が下から迫ってくる、なんていう平凡なアクション映画的エピソードを大ごとのように据えたりしてくる、この感覚。冷めたような人の生き死にの描写をリアリズムと言って良いのか、正直よく分からない。でもなんと言うのだろう、この綺麗なパッケージに整然と整列して並べられたような感じが、凄く現代的だという感覚はある。かけがいの無い古典的な傑作である一冊の文庫本を町の小さな老舗の古本屋で手にとるようなロマンが、ノーランの映画にはない。同じ古典作品の電子書籍Amazonで買っても、別にそんな違いはないでしょ?という雰囲気をノーランには感じる。別にいいじゃん、むしろキレイで清潔じゃんってな感じ。

 

1週間と1日と1時間を圧縮して、並行的に見せるという本作の特徴的な構成も、果たしてどういう意味があったのか分からない。それによって臨場感が生まれたとも思わないし、通常の時間感覚を狂わすことで生まれるドラマがあったという印象もない(ラスト、砂浜で全ての時間が一致することに特にカタルシスもなかったような気もする)。もちろんその手法の魅力を理屈づけて批評することはいくらでもできるだろうが、なんだかそれも正直に言えば虚しい。ただ、1週間苦しむことも、1時間で捕虜になることも、それぞれの体験がそれぞれに良い悪いや重い軽いの違いもなく「ただある」んだよ、という感覚がある。これはやはりとても「正直」だなと思う。なんというか本当に正直。

 

ノーランはその作品が持つ正直さが、ある種の誠実さとして受け止められているのではないかなぁと思った。