映画と映像とテクストと

映画や読んだ本などの感想を書きます。ビデオゲームについてはこちら→http://turqu-videogame.hatenablog.com/

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観た

2023年。古賀豪監督。面白かった。ただ、そこまで面白いかというと、個人的にはピンとこない感じもあった。確かに昭和の戦後間もないころの雰囲気など、とても興味深い描写があり、そこはとても楽しかった。しかし総じてちゃんと妖怪バトルアニメになっており、どこかチグハグな印象も感じた。タバコを所構わず吸いまくる昭和の男性を中心とした、とても身勝手な社会というものへの苛立ち、ヒロインの女の子や体を乗っ取られる男の子の悲惨さ、これらは凄く作品のキモとなる部分だし凄みも感じつつも、作品全体としてどこかしっくりこない感じもあった。逆に妖怪バトルアニメであろうとする姿勢には強い好感を抱いた。いわば「大人向け」なところよりも、「子供でも楽しめる」側面が手を抜いてない感じが、私としては「良い映画だったな」という感想につながっている。

あまりエグくならないように描くという方針などもあるだろうし(それでも色々踏み込んで描いてるとも思うが)作品としてとても難しいところを、綺麗にまとめているとは思う。図々しい感想だが、更にもう一回り大きくまとめきる力強さが欲しかったとも思ってしまう。正直言うと、鬼太郎の父親キャラがそこまで魅力的に思えなかった。単純に、ここが、この作品を楽しめなかった大きな要因なのかもしれない。

『劇場版 呪術廻戦0』を観た

2021年。朴性厚監督。面白かった。最初、TVの『呪術廻戦』は乗り切れない思いがして見ていなかったが、連続して見ていると楽しい。1期の東西対決のところあたりから、かなり面白く感じるようになってきた。

本作は前日譚というか、五条先生が若い頃の話だが、夏油が好きになれるお話だった。重要人物をサクサク殺していく展開というのも、一見単純なように見えて、色々と工夫があって面白いと思った。

『ゲットアウト』を観た

2017年。ジョーダン・ピール監督。なるほどー、こういう映画なんだね。前評判の高さなどから、どういう映画なのか(やや警戒心を抱きつつ)観たけれど、面白かったし、今風だなぁとつくづく思った。

白人女性が黒人の彼氏を自分の両親に紹介するという、ドタバタラブコメ的なノリと思いきや、がっつりと中盤からスリラーになっていく。しかし全体的にどこか軽いノリというのはあって、その硬軟織り交ぜた雰囲気は逆にソワソワする感じもある。

『ドントルックアップ』や『ナイブズアウト』の持つ軽やかさと共通するものがあると思う。それぞれ全然違う作品でありながら。落語っぽいというのか。なんかそんな感じ。

『狂い咲きサンダーロード』を観た

1980年。石井聰亙監督。時々見たくなる本作。なんだろうか、この良さ。ラストのアーマーに身を包んだ主人公のかっこよさ。泣きたくなるかっこよさ。

元リーダーで結局好きな女に逃げられるあの男のキャラクターが今回は気になってしまった。なんか不思議。すごく時間を割いて人物像が描かれるけど、暴力的なシーンにはほぼ出てこないし、妙にファンシーな加工がされた中で彼女とキャッキャウフフするという不思議な映像で語られる。他の殺伐したシーンとの対比で、妙に印象に残るものの、それがこの映画において大事な要素なのか、どこかよくわからない感じが面白い。

『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観た

2021年。イシグロキョウヘイ監督。俳句を扱う青春アニメ。面白かった。最後のアレを割ってしまうシーンでは「あっ!」と,思わず声を出してしまった。デイサービスとYouTubeやってるチャキチャキの女の子と俳句好きな少年と、色々とチグハグな組み合わせなのに爽やかにつながっていてそこが凄かった。少年もいかにも文学青年という感じでもなく、YouTubeの女の子もそこまでふわふわとしているのでもない。両者ともどこか冷静に自分を捉える。テンプレっぽいキャラクターに見えて、そうでもない「地味さ」が丁寧に描かれていて、そこが良かったのかもしれない。

どこか突き抜けない面白さも、好ましい感じがある。

 

『THE DEPTH』を観た

2010年。濱口竜介監督。面白かった。随分と若々しい感じがしたけれど、2010年の作品なのね。『PASSION』よりも走ってるような印象があった。ヤクザ、男娼、カメラ、友情、結婚。いろんな分かりやすい要素はあるのだけど、どれも分かりやすく撮られてなくて面白い。濱口竜介らしい、いやらしさがあって、しかしサスペンスとしても面白い。楽しい映画だった。なんか全てがチグハグのような気もするのだけど、そこが魅力とも思えるし、何より面白いから良いのだと思う。

しかしなぜ濱口竜介NTR(寝取られ)にここまでこだわるのだろう。別に「寝」てはない作品も多いかもだが(『寝ても覚めても』とか)、この「恋人が奪われる」ことへの異常なこだわりには気になる感じもある。しかもたいていは奪われるのは男性なのだ。社会の中の男性のありようみたいなものを揺るがすような感じがあって、とてもメッセージ性があるように思える。一方、単純に面白いという感覚も強くて、それでいて他人事のような感覚もある。NTR東日本大震災のような、遠そうでいて、しかしとても身近な問題にも感じる。

 

『ゴーストワールド』を観た

2001年。テリー・ツワイゴフ監督。素晴らしかった。こんな素晴らしい映画が2001年にあったことを全然知らなかった。

ソーラ・バーチが本当にステキ。ふわふわとしていて、勝手で、理屈っぽいのに、とても直情的。そのやり場のない怒りや悲しみを掬い取ってくれるのは、来るはずのないバス停に来るあの世とを接続するバスだけ。このイメージも美しい。

「大人になれ」で済ますには、あまりに悲しすぎる悲しみ。ソーラ・バーチのように若くても、そしてあのバス停で待ち続けた老年の男性であっても同じなのだ。年齢や世代に回収されない、もっと普遍的な悲しみがある。自分たちが見ないふりをしていることを、ただソーラ・バーチはあまりに生真面目に見つめ続けるからこそ、あのバスに乗れてしまう(乗ってしまう)のだろう。