映画と映像とテクストと

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『赤穂浪士 天の巻 地の巻』を観た

1956年。松田定次監督。吉良上野介がいかにも金に汚い大人で、浅野内匠頭が繊細で神経質そうな男。そんな、実にベタな忠臣蔵のお話が前半は駆け足で展開する。しかも比較的穏やかな語り口で描かれるため、地味な印象で見ていた。しかし、後半の「地の巻」から俄然盛り上がってくる。とにかく大石内蔵助市川右太衛門が良い。見ていて頼もしくてしょうがない。大石を見ていることが楽しい忠臣蔵は、良い忠臣蔵だ。やはり白眉は立花左近とのシーンだろう。片岡千恵蔵演じる立花の表情がとにかく面白い。この見栄、本当に気持ちがいい。

 

大佛次郎原作の作品で、上杉藩のスパイである堀田という素浪人が出てくるところにオリジナリティがある。最後、この素浪人がどのようにして討ち入りに絡むのか、見ていてワクワクするし、そしてとても綺麗な落とし所であったと思う。大石内蔵助がなぜそんなにも大衆に愛されたのか。忠臣蔵が忠義の物語でありつつ、権力への反抗でもあるという、一粒で二度美味しいプロットであることが、よく分かる。

 

忠臣蔵というと、自分は1985年の年末に日テレでTV放映された『忠臣蔵』(里見浩太朗 主演)が最高の忠臣蔵だと思っていて、どうしても忠臣蔵を見ると、その里見版『忠臣蔵』との差分で色々と評価してしまう。しかし本作はそうした差分で感じる物足りなさはありつつも、とても整然とした手つきの演出が染みる名作だったと感じる。ラストの内蔵助の男泣きも飾らなさが実にいい。とても素敵な忠臣蔵だった。