映画と映像とテクストと

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『プロメア』を観た

今石監督の長編アニメ。『グレンラガン』と『キルラキル』を愛する者として、どうしても見たかった。トータルとしては、残念な出来だとは思うが、見所はある。


バーニッシュと言われる自然発火能力を持つ者が、差別され拘束される世界。火災を鎮火する職業の主人公が色々あって、最後、世界を救う。


被差別者が不当に逮捕される様を描く序盤のエピソードは「お、今石監督も真正面から社会問題を描くのかな?ちょっと表現が素朴すぎる気もするが」などと(不安とともに)少し興味はそそられるものの、結局あまり掘り下げられることはなかった。


うまく描けないものは描かないというのはある意味誠実ではあるのかもしれないが、やはり物足りなさは感じる。特に『スパイダーバース』という傑作を既に見ている者としてはなんとも歯応えがない。


とはいえ、終盤の「消す」のではなく「燃やし尽くす」事が世界を救う、という展開には見所を見出すことも可能かもしれない。それは「被差別者の不都合な側面を取り除くなら社会に包摂してやる」という考え方へのカウンターとも解釈できそう。ただ、それを描くには描くべきものが足りなさすぎる。例えばバーニッシュという存在は「世界を救った」から認められるべき存在なんだ、という結論ではつまらなさすぎる。「燃やす」ことをそれ自体として認めるロジックが欲しかった。そうでなければ、バーニッシュを社会から排除することがいつでも正当化されてしまうだろう。


あと、一番気になったのは、「バカこそが世界を救う」というバカ救世主神話だ。もはやこのバカを尊ぶテンプレートには飽きてしまった。それだけではなく、バカこそが無駄に暴力的であり、社会を分断させかねないという昨今の現実を鑑みるに、バカを称えるには理由が少なすぎるように思う。単なるバカではなく「火消しバカ」であるというのもある種の言い訳かもしれないが、それでも「なぜそういう専門バカが世界を救うのか」よく分からない。個人的には「バカ」はまさに今こそ議論されるべき存在だと思っている。だからこそ「単なる純粋なもの」でしかなかった本作のバカはつまらないものに見えた。アニメの世界もそろそろバカ2.0へのアップデートが必要だろう。


キルラキル』ほどの切れ味も説得力もなく、後半の派手さと暑苦しさには少々鼻白む思いがする。前半の方が、物語への期待感もあって楽しかった。ただ、残念な出来ではあるものの『ダーリンインザフランキス』のような腰のすわってない駄作よりも遥かによくできているとは思った。