映画と映像とテクストと

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『タバコ・ロード』を観た

1941年。ジョン・フォード監督。びっくりした。なんかあまり気乗りがしないままに見始めたのたが、終盤ではなんだかとんでもないものを見させられた気分になった。

 

喜劇なんだけど、ほとんどマトモな人間が出てこない狂乱の映画であり、恐怖さえ覚える。息子のデュードの叫び声はホラー映画のよう。そしてこんなめちゃくちゃな映画なのに、貧しさの物悲しさには全く笑えないほどの重みがある。どのシーンの構図もバッチリ決まっているところも本当に面白くて、なんと形容していいのか分からない。

 

「貧しさの中にも明るさがあって」みたいな言われ方もする映画だが、どうもそんな風には自分には思えなかった。いや、バカすぎて笑えないとか、そういう理由だけではなくて、例えば、デュードやエリーメイは良いのだ。彼ら、若者は多分生きていける。やはり老人たちの生き様こそがキモで、彼らは自分の生き方を変えられない。その愚かさに頑なにこだわる。そして、映画はそれを否定と肯定の両方を同時に行うように描く。救貧農場に行った方が遥かにマトモな生活を送れることは分かりきっていて、それでも傾きかけた家と荒れ果てた農地に執着する人間は、愚かさを超え、綺麗でも気高くもないのだけど、得体の知れない、しかし、人としていかんともしがたい生のリアリズムを示しているように思う。すごい。