映画と映像とテクストと

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『雨月物語』を観た

1953年。溝口健二監督。素晴らしかった。ただ見ることしかできない。そして画の美しさもさることながら、セリフの美しさにも毎回唸ってしまう。着飾ることはないが、その地に足のついたセリフの数々のおかげで、心に余裕を持って安心して見ることができる。

 

市場のシーンの美しさはすごかった。画面の端にも世界が広がっているようにしか思えない、そのドキュメンタリー感。すごくドラマがかった作品なのに、時折、そのままの現実を写しているような錯覚をする。しかしおそらく現実を(仮にタイムマシンに乗って)撮影したとしても、あんなに美しくはならないだろう。あるべきところにあらゆるものがあるという錯覚に酔う。そのなんと心地よいことか。

 

また、あの妻の霊が現れる有名なシーン。主人公の男が眠っても、それが幻のように消えたりしない。そのまま霊が動き、物を動かす。幽玄と言うのとは違う、その物理的なあり方に惚れてしまう。幽霊がこんなにも物理的なんて、なんて素敵なんだろうか。

 

本作は「モノ」の映画だと思った。モノをめぐる執着、嫌悪、恐怖。日常ではモノ的ではないと捉えているものさえ、ありありとモノとして写し撮られる。その唯物論的なあり方にとてもロマンを感じる映画だった。