映画と映像とテクストと

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『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』を観た

2022年。ジョン・ワッツ監督。今回のシリーズ、本当によくできていて、最後までとても楽しかった。2作目の『ファー・フローム・ホーム』の方が好きかなって気はするが、3作目となる本作は特に前半が楽しかった。後半、もう少しスパイダーマンらしい可愛げがあるシーンがあると嬉しかったかもしれない。しかし密度の濃い物語で、約2時間半と比較的長めとはいえ、それでもここまで盛りだくさんのヴィランとキャラクターで、渋滞せずにお話がまとまっているのは相変わらず感心する。

今作はなかなか危険な感じもあって、特に「悪を治療する」というのは、人によってはおぞましさを感じるシナリオだろう。ヴィランたちもその「治療」に反発しているものの、この「治療」というのがそこまで強くためらわれることなく進んでいくのは、ある意味、今風ということなんだろうか。「セカンドチャンス」を与えると言えば綺麗に聞こえる気もするが、なかなか危うげでドキドキする感じもある。「スパイダーマンは治療されないのかよ?あ、正義だからいいのか。へー」という僻みは所詮僻みにすぎないと言われるだろうが、あまりにスッパリしてるなという気もする。

ところで、個人的に『ドクター・ストレンジ』の映画が全く面白く感じなかったので、かなりストレンジが出てくる場面が多い点は(悪い意味で)気になった。しかし「大学に嘆願することもせずに、魔術に頼ろうとするなんて!」とスパイダーマンが怒られているくだりは大変愉快だった。アメリカ映画でありがちな「子供を子供として描く」というのは生真面目で好ましく、やはり見ていて安心する感じはある。その上で、若者ゆえの無鉄砲さで正義を貫こうとするのも、とても精悍な印象があって素晴らしかった。

終盤のマルチバース展開には自動的に胸熱になってしまうところはある。しかし一番涙するのはメイおばさんの最期のセリフだろう。ここでこれを持って来られたら泣いてしまう。このシーンだけで、この映画は名作になってしまったと言っても過言ではない。「正義」ではなく「責任」という言葉で何かを語るのは常々うまいと思う。単に巧みというだけでなく、「正義を為せ」よりも「責任を取れ」と言う方が大人らしさ(もっともらしさ)を感じさせる。ただ、まあ、こういう巧みな感じが、ちょっとイヤらしい感じも同時にあって、そこはどうしても少し警戒してしまう。個人的にはMCUスパイダーマンは関わらずにいけるといいのにな、と少し思っている。