映画と映像とテクストと

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『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を観た

2020年。豊島圭介監督。鑑賞前に想像していたよりも、ずっと面白かった。正直、意外だった。メインとなる東大での議論は全部でなくても、結構テレビやネットで見たことのあるものだった。今更それを見てもなぁ、と思っていた。20歳そこそこの学生と40歳を超える三島が話し合ったら、そりゃ三島が上手く手際よく話すだろうと。そんなやや冷めた印象を公開当時も思っていた。

しかし実際にこのドキュメンタリー映画を見てみると、予想はしていたこととはいえ、もっとずっと三島由紀夫に好感を持ってしまう。三島の語りも狡知、と言えば狡知なのかもしれないが、それでもやはり素朴に誠実ということを感じないわけにはいかない。それで済ましていいのか、と言われればその通りなのだが、それでも三島のことを好きにならないわけにはいかない。「物分かりのいいそこら辺の大人よりも、天皇主義者という思想的に対極にある三島の方が誠実に話を聞く」そんな極めて凡庸な感想を抱くわけだが、40歳を超えた大人に、そんな凡庸な誠実さを感じさせるというのは中々凄いことなのかもしれない。

解説として出てくる平野啓一郎も実にいい。とても分かりやすく我々と三島の間にある溝を埋めてくれる。学生の頃、多分に私の思い込みが大きいのだが、三島の小説を好きだと言うのは、少しだけ恥ずかしいことだった。通じゃないな、分かってないなという感じがあった。稲垣足穂が好きですとか、三島の『近代能楽集』だけは素晴らしい、と言う方が賢いっていうか。どこか「三島が好き」って、いかにもという感じがあった。それはキューブリックの映画が好きと告白する感覚にも近いと思っていた。あれから20年。今だに三島も好きだし、キューブリックも好きなままでいる(頭の片隅でそれらの作品が持つ物足りなさも分かるような気もしているのだが、それは意識しないようにしている)。それで良いと思えるようになったことと、この映画がそこはかとなく伝える気持ちには近いものがあると感じている。