映画と映像とテクストと

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『RRR』を観た

2022年。S.S.ラージャマウリ監督。最高に面白かった。正直、観に行く前までは、やや疑わしい気持ちが強かった。『バーフバリ1&2』は1がやや低速で始まる感じがあるが、2は大好きだ。だが、それでも『バーフバリ1&2』をいろんな人に薦めたいかというと、そうでもない。人を選ぶ映画だからというよりも、やはり「変わったもんみたさ」のような感覚で『バーフバリ』を楽しんでいる気持ちが私の中にどこかあって、そんな自分のいやらしさや傲慢さを他人に見つかってしまうような気がして、人には薦めるのが気が引けていた。まあ「そこまで面白いか?」と疑問に思うところももちろんあったからでもある。

ただ、『RRR』は本当に良かった。まずなによりもテンポが良い。3時間(189分)という上映時間が短いとは思わない。実際、インターバルまで見て「おお、まだ半分もあるの?」とちょっとたじろいだ。カロリーの高い映画でもあるし、胸焼けするような感覚もある。ただ、それでも本当にテンポよくずっと楽しい時間を過ごせたというのは感じる。途中、ゆったりする部分もあり緩急を付けつつもさっさと話を進めて、最後の大団円まで持ち込まれる。このテンポの良さは、世評でも絶賛されているように素晴らしかったと思う。

また、本作の政治的な面について。夏目深雪さんの語るように、この映画の愛国主義的すぎる雰囲気に鼻白ろむ気持ちは分からなくはない。英国の悪役としての描き方に疑問を感じる面もある。

https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/RRR-review-2022-10

ただ、この「悪を悪として容赦なく描く」というのは、現代的なものを逆に感じる。そして一方で愛国主義的なものの普遍的な魅力の力強さを改めて感じる。それは実に一筋縄ではいかない、怪しいものでもあるかもしれないが、しかしどこかで「でも良いじゃん!」と乱暴に言ってしまいたくなる気持ちがある。

また、夏目さんの書く

彼女の死体が吊るされるラストシーンはやり過ぎなのではないかと思った。

というのもどれほど酷いシーンかと恐れていたが、意外におとなしくて、拍子抜けをした。個人的にはケネス・ブラナーの『フランケンシュタイン』で、娘さんが興奮した民衆に首吊りで殺されるような衝撃的なシーンを想像していたので、随分とさっぱりしている印象を抱いてしまった。まあ、人によっては酷すぎると思うのかもしれない。

インドの政治については無知なので、ここには確かに警戒すべき何かがあるのかもしれない。特にヒンドゥーのインドにおける立ち位置などには全く自分が分かっていないところあり、そういう面では疑問符もあるのかと想像する。しかし、これだけテンポ良く、見たいもの見せるというのはある意味「正しい」だろう。この「正しさ」に警戒したい、というのは分からなくはないが。

映画館で右隣に座った女性はガッツポーズをしながら本作を見ていた。変わった人だとは思ったがとても良いなと思った。左隣に座ったのは杖をついた老年の男性だった。見てどのように思ったのだろう。幅広い人が見に来るのだと思った。かなりの大入りで、実際に本作は日本でもヒットしていると聞く。ウクライナ侵攻が始まった時に、「日本人は白人にあんなに感情移入するのに、もう同じアジア人であるミャンマーのクーデターのことを忘れてしまったのか。」というような意見をみた。その気持ちはとてもよく分かるものの、こうして白人であるイギリス人がバキバキに殺されていく映画を楽しむのもまた今の日本人の一つの様相なのだと思う。

本作にはインド映画の定番のダンスシーンがあるが、ちゃんとストーリーに組み込まれていて、唐突さはない。本当に他の人にもおすすめしやすい娯楽大作だと感じたし、今までインド映画を見たことない人にも気軽にオススメできる作品だと思った。

スクリーンで見れて本当に良かった。