映画と映像とテクストと

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『偶然と想像』を観た

2021年。濱口竜介監督。面白かった。オリジナルでこんなに面白い脚本ができてしまうのだから、なんともすごい。3話とも面白かったのだけど、最終話はとても素敵で、濱口映画としては『親密さ(2012)』に近い、人の生き方を肯定する物語だった印象を受けた。

個人的には『ドライブマイカー』のような商業的なラインに乗った(?)作品の方が少しだけ好きかもしれない。本作『偶然と想像』もすごく良かったのだが、ちょっと背伸びをして作るような、作り手の不自由さを感じる作品が、私の好みとしてはあるように思った。

棒読みっぽい演技の面白さも、段々と見ている側が鍛えられてきたというのもあるのかもしれないが、円熟の域に達してきたように感じる。本を読んでいる感覚を映画で味わうというか、テキストが意味的にも統語的にも前面に出てきて、テキストの圧で説得させる。させられる。ただテキストの魅力はもちろんだが、やはり濱口監督の映画は画がちゃんと面白い。元彼のオフィス、喫茶店の構図、教授の研究室、仙台駅前の歩道橋、2人が駅に向かって並んで歩く姿。どれもなんか面白い。2人の最後のハグは、絶対に地面ではなくて、少し浮いた歩道橋の上ではなくてはいけなかっただろう。作中の瀬川教授が言っていたように「適切であること」としか言いようがない、あるべきものをあるべき場所に置く力。本作を見ていると、この審美的感覚が、人の生き様にまで敷衍されているように思った。