映画と映像とテクストと

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『天井桟敷の人々』を観た

1945年。マルセル・カルネ監督。妖艶な美しさを持つガランスを中心に、繊細で内向的な無言劇役者バチスト、豪胆で女好きの役者ルメートル、世を厭う詩人で犯罪者ラスネールの3人の男たちの生き方とロマンスが巡る物語。

序盤のバチストによるパントマイムで一気に物語に引き込まれる。そして何より美しい脚本。つい引用したくなるような素敵な言葉がさりげなく出てくる。とても分かりやすい物語でありながら、単純に分かりやすい落とし所で終わらない。心のどこかに引っかかりを覚えながら、でも人生こういうもんだよなというリアリズムがある。3時間と長い映画だが、ずっと面白いのだからたまらない。これが1945年にフランスで上映され、そしてヒットしたと言うのだから、何だかよく分からないけどすごいなと思ってしまう。

誰でも理解できる、大衆でも分かる、なんて物言いはすごくエラソーでもあり、上手く表現することがなかなか難しいのだが、軽妙にそれを表現して、かつ決して単純に大衆的なものをバカにするわけでもなく、しかしやっぱりバチストもラスネールも伯爵も、世俗から浮世離れした男たちはそれなりに不幸になるのがなんだか面白い。まあ、ラッパ吹きのジェリコもまた幸せか不幸なのか分からないが、彼が大衆を代表しているわけでもないだろう。細部はとても世俗的であるのに、映画を観ていると何が世俗的であるのかないのかが、つとに分からなくなる。ガランスは、伯爵の元に身を寄せていたけれど、ずっとバチストを愛していたということが疑いなく真実に思え、それにまとう神聖さ、そして矛盾するようだが俗っぽさ。いやこの複雑さをこれだけ軽やかに表現できているのはもう見事と言う他ない。素晴らしく楽しい映画だった。素晴らしかった。

しかし高校生の頃に見た時も面白いと思った。もちろん、その20年後もまたちゃんと更に面白かったが、高校生ぐらいにも分かる面白さであることもすごい。