映画と映像とテクストと

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『獅子座』を観た

1959年。エリック・ロメール監督。叔母の莫大な遺産が手に入ると聞いた男の堕落と再生の物語。ラストなどはいかにもロメールらしい展開。どこか突き抜けた楽天性と、全編にそこはかとなく宿る冷たい視線。

主人公の落ちぶれていく様が目を引くのはもちろんだが、彼の周りにいる街の人たちの振る舞いが面白い。ホームレスとなった主人公に全く無関心であり、ただ彼ら市井の人たちが個人的な幸せを享受しているだけでも、どこか恨めしい気持ちにさせる。また、主人公も単に破天荒な男というわけでもなく、音楽を愛し、芸術を愛する音楽家である。ただ自らの才能よりも「強運によって生きてきた」と自らのガサツさを嘯く。しかし一方で音楽家らしい繊細さも持ち合わせており、「いつか川に飛び込むのではないか」と観ているこっちは何度もヒヤヒヤしながら、彼は一度も川に飛び込んで水浸しになるようなことはない。自らの中途半端さを積極的に肯定していこうとするが、世の不条理さや複雑さが否応なく目に入ってくるくらいには繊細であり、割り切ってホームレス業に邁進するほど鈍感でいられない。

それでも、わずかに鳴らしたバイオリンの音によって最後の幸運がもたらされるところまで、実に綺麗で都合が良く、その都合のよさにこそ、どこか救われる気持ちになる。